そういって女性はたくさん買ったであろうおおきな
紙袋を開くと、そこから一冊の古本を取り出した。
「たとえばこれなんかとてもマニアックな本なんで
すよ。廃盤だから取り寄せも出来ないし」
取り出されたその本は、縁取りに緑の葉をかたどっ
た美しいデザインが施されていた。
「この本の著者は私がとても好きな作家で、若年の
ころはそれはドラマチックな話ばかり書いていたん
ですけどね、年をとってからは、そのときの自身の
生き方を写し取ったような、素朴な生活の中で
ささやかな幸せを見いだすといった感じの短編を
たくさん書いていたの、
これはそんなお話を集めた短篇集」
女性は丁寧に製本された本を、愛おしそうになでて
いた。
|