#1月明かりの道
#1月明かりの道

 そういって女性はたくさん買ったであろうおおきな
 紙袋を開くと、そこから一冊の古本を取り出した。
 「たとえばこれなんかとてもマニアックな本なんで
 すよ。廃盤だから取り寄せも出来ないし」
 取り出されたその本は、縁取りに緑の葉をかたどっ
 た美しいデザインが施されていた。
 「この本の著者は私がとても好きな作家で、若年の
 ころはそれはドラマチックな話ばかり書いていたん
 ですけどね、年をとってからは、そのときの自身の
 生き方を写し取ったような、素朴な生活の中で
 ささやかな幸せを見いだすといった感じの短編を
 たくさん書いていたの、
 これはそんなお話を集めた短篇集」
 女性は丁寧に製本された本を、愛おしそうになでて
 いた。
  
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