#1月明かりの道
#1月明かりの道

 その時かめくんは何故か不意に、女性が演劇に対し
 て抱いていた〔触れてはいけない思い〕が、自分に
 託されたのではないだろうかという奇妙な感覚を覚
 え、少し心がざわめいた。
 −あの女性は、もうそのようには思っていないと言
 っていたのに、なぜなんだろう−
 かめくんは、頭の中で不透明な疑問を反芻した。
 「いいなあ、かめくんは。わたしもその人と会いた
  かった!」
 突然、わーちゃんは晴れない霧を吹き飛ばすかのよ
 うな勢いで言った。
 そしてふいに、
 「その人、もう一度お芝居はじめたらいいのにね」
 と、テーブルに置かれた緑色の美しい古本を、
 ぱらぱらと捲りながらつぶやくのだった。
       
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