#1月明かりの道
#1月明かりの道

 かめくんが、今日あったことのほとんどを話してい
 る間、わーちゃんは他のことはいっさい聞こえない
 かのように真剣に話を聞き、当然遅くなったことへ
 の謝罪や買い物の報告など、すっかり忘れていたと
 言うわけだ。
 かめくんは今日あったことの殆どを話したが、
 女性が最初泣きそうに見えたこと、帰る頃にはその
 様な表情は無くなっていたこと、そして去り際に言
 った〔高尚すぎる演劇への思い〕は、話さない事に
 した。
 そういった誰かの秘められた思い出や、おそらくそ
 れを由来とする感情の流れようなものは、
 もちろんかめくん自身もあの女性の過去の事を全部
 知っているわけでは無いのだが、あまり誰にでも話
 してはいけないもののような気がしたのだ。
 たとえそれが自分にとって一番身近な人であったと
 しても。  
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