かめくんが、今日あったことのほとんどを話してい
る間、わーちゃんは他のことはいっさい聞こえない
かのように真剣に話を聞き、当然遅くなったことへ
の謝罪や買い物の報告など、すっかり忘れていたと
言うわけだ。
かめくんは今日あったことの殆どを話したが、
女性が最初泣きそうに見えたこと、帰る頃にはその
様な表情は無くなっていたこと、そして去り際に言
った〔高尚すぎる演劇への思い〕は、話さない事に
した。
そういった誰かの秘められた思い出や、おそらくそ
れを由来とする感情の流れようなものは、
もちろんかめくん自身もあの女性の過去の事を全部
知っているわけでは無いのだが、あまり誰にでも話
してはいけないもののような気がしたのだ。
たとえそれが自分にとって一番身近な人であったと
しても。 |