#1月明かりの道
#1月明かりの道

 かめくんが「それは?」と聞こうとしたが、
 女性はその暇も与えずに続けた。
 「わたし、あのことは自分の中で何か高尚すぎると
  いうような、触れてはいけないもののように感じ
  ていたんです。でも今日あなたと話していて、
  もっと身近な、ちゃんと私の手の中にあったもの
  のような気がしました。」
 「それは『演劇が』ということですか?」
 夕焼け前の逆光が当たって、眩しそうに目を細め 
 たかめくんがそう言うと、
 女性はただしっかりとうなずき、今度こそかめくん
 に背を向けた。
 −これが舞台なら、ここで暗転といった感じだろ
 うか−
 通りの端に小さくなってゆく女性を見ながら、
 かめくんはぼんやりと考えた。  
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