#1月明かりの道
#1月明かりの道

 「テーマカラーですか、誰かにそう言われたの
  ですか?」
 そう聞いたときには、かめくんはもうこの初老の女
 性に対する興味を隠せずにいた。
 「ごめんなさい、じつはこれ、お芝居の中の話なの
  私は昔、舞台の役者だったのよ」
 秘密めいた言い回しに終止符を打つべく、女性は努
 めて現実的に聞こえるように言ってみたが、
 かめくんにとってはそれは何の意味も持たないこと
 だった。
 なぜならかめくんはこれまで「舞台の役者だった」
 という人に出会ったことなど無く、それ自体が雲を
 つかむような話で、曖昧模糊とした想像力しか働か
 せることが出来なかったからだ。
  
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